2021年 02月 22日
舞台『波の上のキネマ』感想
舞台『波の上のキネマ』感想
(兵庫県立芸術文化センターにて 2021年2月20日鑑賞)
※画像はイメージです
【あらすじ紹介】
コロナ禍の現代。小さいが歴史ある映画館『波の上キネマ』は、閉館を迫られていた。祖父・俊英がはるか昔、沖縄県・西表島のジャングルの中に映画館を作っていたことを知り、経営者の俊介は謎を追って旅立つ。
騙されて過酷な労働を強いられる俊英。絶望の彼を支えたのは理解者たる仲間と、夢のある映画、そしてある一人の少女の面影だった……。
兵庫県立ピッコロ劇団第69回公演。増山実の小説『波の上のキネマ』をもとに、岩崎正裕が脚本・演出を手掛ける。現代と過去、様々な文化が複雑に交差する物語を、関西俳優陣の熱演により鮮やかに舞台化された。
・小説『波の上のキネマ』感想はこちら
【感想・ネタバレ多少あり】
有名映画が溢れんばかりに登場し、ジャングルが舞台となるこの作品の舞台化を知り、私はとても驚いた。一体、どうやって。想像もつかない。そしてどうしても見たいという思いに駆られた。
緊急事態宣言の最中で半ばあきらめていたが、幸い劇場の近くへ行く用事があり、奇跡的に足を運ぶことが出来た。一階席はかなり埋まっており、コロナ禍とはいえ関心の高さが伺えた。
俳優が次々と有名映画を演じていく華麗なオープニングから、人情が染み出る兵庫県・尼崎、華やかで哀しい沖縄の遊郭、過酷なジャングルの炭鉱と、目の前で次々に変わっていくシーンは見事で、舞台芸術の面白さを感じた。また、作品のテーマでもあるエンターテイメントの活力と、多様な文化の融合を視覚化していて、演劇という表現の奥深さを知ることが出来た。全体的に重いストーリーの中、コミカルな部分やミュージカルの場面も多く、とても工夫されていて良かった。
モヒカンがバイクに乗るシーン、サガリバナの花が舞い降るシーンなど、小説の中で印象に残った観たいエピソードも再現されていて、本当に物語に入り込んだような感動を覚えた。
原作の小説が発売されたのは3年前だが、舞台化にあたり、コロナ禍の現代の設定を取り入れたのも、大きなポイントだろう。演劇にとっての逆風の時代が、ラストシーンの感動を何重にも大きくして、涙腺が緩んだ。
明るさと力強さに満ちた素敵な舞台だった。けれど、上演までには大変な努力と苦心があったに違いない。舞台に関わったすべての方々に、深い感謝の気持ちが湧きあがった。